京野さち名義での俳句ポスト入選句その三

麦踏(春)

人選 麦を踏む電波の届かない所(2月27日)

人選 麦踏んでそんな力士が居たよねと(2月27日)

蕨餅(春)

人選 日の沈む店の二階や蕨餅(3月12日)

蒸鰈(春)

人選 落語なら上方といふ蒸鰈(3月26日)

人選 原発の動く動かぬ蒸鰈(3月26日)

ボートレース(春)

人選 伯父となりボートレースのはなしかな(4月9日)

春暖(春)

人選 春暖や鏡の傷のきらめいて(4月23日)

姫女苑(夏)

人選 姫女苑いま時の子は脚長い(5月21日)

人選 姫女苑倭国卑弥呼ありにけり(5月21日)

鰻(夏)

人選 上司への愚痴を聞いてくれるか鰻(6月4日)

梅雨寒(夏)

人選 入って梅雨寒出て梅雨寒の純喫茶(6月18日)

人選 梅雨寒や缶に入りたる酒安し(6月18日)

翡翠(夏)

人選 玉に瑕あり翡翠に呻きあり(7月2日)

プール(夏)

人選 プール一度入ればこんなにも広い(7月16日)

人選 泳ぐとも潜るともなくプールかな(7月16日)

地選 唇を読んでプールの端と端(7月17日)

蝉(夏)

人選 蝉からの伝言板として木々よ(7月30日)

人選 蝉やこの漢字の旁たる形(7月30日)

藤袴(秋)

人選 藤袴あしたの影の色となる(8月27日)

人選 選挙ポスター朽ちて一枚藤袴(8月27日)

野分(秋)

人選 ぢつとしてゐろよ野分は別だがな(9月11日)

人選 野分なり古地図は此処を海と云ふ(9月11日)

唐辛子(秋)

人選 唐辛子の子孫成吉思汗の子孫(9月25日)

人選 革命はいつも唐突唐辛子(9月25日)

秋晴(秋)

人選 秋晴や昭和十五年の五輪(10月9日)

実紫(秋)

人選 エメラルドルビーサファイア実紫(11月5日)

嚔(冬)

人選 嚔して聞き漏らしたる神の声(11月19日)

人選 嚔して体わづかに減りにけり(11月19日)

熱燗(冬)

人選 熱燗は日の丸の白やも知れぬ(12月3日)

鮫(冬)

人選 着ぐるみにゐて鮫の近き海(12月17日)

寒海苔(冬)

人選 寒海苔であればと戦前の生れ(1月14日)

鷹(冬)

並選 鷹といふ漢字に鷹の飛びにけり(1月28日)

狐火(冬)

人選 狐火は知ってる狐は知らない(2月11日)

人選 タクシーに挙げた指先に狐火(2月11日)

春の夕焼(春)

磯巾着(春)

卒業(春)

京野さち名義での俳句ポスト入選句その二

うらうら(春)

人選 うらうらや男泣く泣く泣く泣く泣く(2月14日)

菠薐草(春)

人選 声明や菠薐草の根の紫(2月28日)

ていれぎ(春)

人選 ていれぎと言はれて育つみどりかな(3月14日)

柏落葉(春)

人選 暦二枚ぺりぺり柏落葉の日(3月28日)

サイネリア(春)

人選 サイネリア芸人の似非外国語(4月11日)

桜鯛(春)

人選 列島を満開にして桜鯛(4月25日)
人選 桜鯛さばかいだうを通りしか(4月25日) ※さばかいだう=鯖街道(さばかいどう)

水鉄砲(夏)

人選 水鉄砲が冷たいこれは夢じゃない(5月23日)

蟇(夏)

人選 蟇ゐてこの砂場湿つてゐる(6月6日)

罌粟坊主(夏)

人選 罌粟坊主一生分見られる所(6月20日)
人選 罌粟坊主しけもく拾ひたる右手(6月20日)

楊梅(夏)

人選 楊梅の真赤太陽より真赤(7月4日)

空蝉(夏)

人選 山門や空蝉少し生臭き(7月18日)
人選 近頃の空蝉どうも柔らかい(7月18日)

鱧(夏)

人選 淡々と鱧を凶暴なる鱧を(8月1日)

轡虫(秋)

人選 重さうな声して小さし轡虫 (8月29日)

人選 居るはずのない祖父いいえ轡虫 (8月29日)

秋薔薇(秋)

人選 秋薔薇や死刑報ずる小さき文字(9月11日)

竜田姫(秋)

(なし)

重陽(秋)

並選 重陽や甥っ子九九のおぼつかぬ(10月10日)

茸(秋)

(なし)

檸檬(秋)

人選 祖母の厨何に使ふとなく檸檬(11月7日)

初冬(冬)

人選 初冬や遊具の少なきに子らは(11月21日)

落葉(冬)

人選 風あれば落葉ふたたび落葉かな(12月5日)

人選 公園の昼の便所を落葉かな(12月5日)

鱈場蟹(冬)

人選 鱈場蟹日本に露語の海のあり(12月19日)

雪女(冬)

人選 雪をんな未だ涙の凍らざる(1月16日)

冬眠(冬)

人選 冬眠の土ようやつとありにけり(1月30日)

人選 冬眠の麓徳川埋蔵金(1月30日)

寒椿(冬)

人選 あの角にカルトのにほひ寒椿(2月13日)

人選 寒椿おじの語れる津田恒美(2月13日)

 

京野さち名義での俳句ポスト入選句その一

石蓴(春)

人選 石蓴生す君が代に言ふ苔と生す(2月15日)

しゃぼん玉(春)

人選 ポコポコとマトリョーシカのシャボン玉(3月1日)

薇(春)

人選 薇を小人の杖と喜べる(3月15日)

春潮(春)

人選 春潮の青をゴッホに届けたし(3月29日)

三色菫(春)

人選 バス一つ逃し三色菫かな(4月12日)

地選 入り口にパンジー奥にチンパンジー(4月13日)

金盞花(春)

人選 金盞花土の金色吸って金(4月26日)

蟻(夏)

並選 小粒なる蟻のピリリと吾を噛めり(5月10日)

初鰹(夏)

並選 初鰹取り合わせには青い皿(5月24日)

老鶯(夏)

並選 分け入りていま老鶯の青き山(6月7日)

虹(夏)

人選 植物園にじにはなにがさくでせう(6月21日)

赤潮(夏)

人選 赤潮の秋に朱なる鳥居かな(7月5日)

海の日(夏)

人選 海の日よ乗鞍岳を発つ川よ(7月19日)

夏草(夏)

人選 夏草のいま金色に平泉(8月2日)

踊(秋)

並選 煩悩を転がすやうに盆踊(8月16日)

鰯雲(秋)

並選 第百回大会の跡鰯雲(8月30日)

稗(秋)

人選 まだ被災地と呼ばるる土に強く稗(9月13日)

無月(秋)

人選 六甲は無月ナイター五回裏(9月27日)

人選 白味噌の餡の匂うて無月かな(9月27日)

無花果(秋)

人選 無花果に赤らむ五臓六腑かな(10月11日)

色鳥(秋)

人選 色鳥の一羽は死んだあの子かな(10月25日)

胡桃(秋)

人選 胡桃割リ競技ヲ此処二開催ス(11月8日)

炬燵(冬)

並選 電気炬燵は白黒の記憶へと(11月22日)

重ね着(冬)

並選 重ね着や数字にならぬ乗車率(12月6日)

枇杷の花(冬)

人選 枇杷の花全治三週間の怪我(12月20日)

雪兎(冬)

人選 雪兎なんでこの子動かへんの(1月17日)

鮃(冬)

人選 鮃を見続ける人間が歪む(1月31日)